「ハイカムシャフトを組んだら低回転の調子が悪いのでキャブのセッティングをしてほしい」
というお問い合わせが非常に(異常に)多いので、ここで簡単に説明させていただきます。

内燃機関レシプロエンジン(以下簡単にエンジンと呼びます)の基本的な予備知識を持ち合わせていないと、ご理解をいただくことは難しい可能性がありますが、イチから説明するとかなりの文字数になる為、簡単に説明いたします。

結論から申し上げますと、お問い合わせのほとんどの場合は、不具合が有って低回転域の調子が悪いのではなく、
「高回転域での高出力と引き換えに、低回転域が不安定で調子が悪くなる部品 = ハイカムという部品、を組み込んだ」
ということになります。

「ハイカム」と呼ばれる部品は「ハイリフトカムシャフト」を略した呼び名で、文字通り「バルブのリフト量」を増やしたカムシャフトです。
リフト量の増加のみでしたらそれほど低回転域は不安定になりませんが、同時に「作用角。バルブが開いている時間(角度)」も増えている場合が多いです。

作用角の大きいカムシャフトは、ノーマルカムシャフトと比較すると、吸気バルブ、排気バルブ、共に、早くから開きはじめ、遅くまで開いているように設定(設計)されています。

バルブが、長い間開いていると、高回転時にはより多くの空気をシリンダー内に充填することができるようになり、出力を向上させることができますが、それと引き換えに低回転時には以下の様なデメリットが発生いたします。

●「ピストンが上昇に転じても長い時間吸気バルブが開いている為、せっかく吸い込んだ吸入空気が逆流してしまう現象」
●「吸気、排気、各バルブ両方開いている時間(バルブオーバーラップ)が長い為、がせっかく吸い込んだ空気がそのまま排気バルブから出て行ってしまう現象」

これらの現象は、吸気系の流速が上がらない、負圧が少なくなる、充填効率の低下、などの原因により、「低回転域の調子が悪い」という症状として現れます。
流速による負圧で各ジェットから燃料が吸い出されるキャブレターにとって、流速及び負圧の低下は、あまり嬉しいことではありません。

混合気を供給するという仕事を受け持つ補器類である「キャブレター」という部品を調整しても、エンジン本体の基本的な特性が変わる訳ではございません。(アウターベンチュリー径を絞ったりすれば、多少の改善が見込める場合もありますが、径を絞ったことにより高回転時にエンジンが欲している十分な空気が入らず、何のためにハイカムを入れたのか本末転倒です。また、バルブが長い時間(角度)開いているという事実は変わらない為、根本的な解決にはなりません)

色々とお話を聞いていると、エンジンを高回転まで回す走り方をされない方が、エンジンが高回転型になってしまう300°前後の作用角を持つカムシャフトに交換されているパターンも多いです。

「ハイカムという部品を組み込めば速くなるよ」と言われて、オーバーホールついでに組み込みを依頼したのでしょうか?

「ハイカムを入れれば速くなる」というのは、ある意味正解であり、ある意味不正解です。
クローズドコースや峠道で高回転をキープする走り方をされる方には正解でしょう。
街乗りのみ、高回転なんて回さないという方には、不正解。街中で主に使用する低回転域では、力が無く、安定せず、ただただ乗りにくいエンジンになってしまいます。

散歩に行くために履き心地が良く疲れない靴が必要なのに、100mを9秒台で走る為に開発されたアスリート用のシューズを買ってしまった。というような感じでしょうか。散歩には全く適しておりません。

「ハイカムシャフト」という部品は、吸気、排気、各バルブが開く「高さ、(リフト量)」及び「開いている時間(正確にはクランクシャフトで表す角度、作用角)」を増やし、高回転時により多くの空気を吸い込み、またスムーズに排出させ、より大きな力を発生させる部品です。

「300°前後のハイカムシャフトを組んだら低回転の調子が悪いのでキャブのセッティングをしてほしい」というお問い合わせが、いかに矛盾している内容かご理解いただけましたら幸いです。

限られた条件下で最高のパフォーマンスを発揮するように作られた「レース用部品、競技用部品」は、決してすばらしい万能パーツではございません。
上記300°カムシャフトも、クローズドコースで高回転パワーバンドをキープし続ける運転では最高のパフォーマンスを発揮すると思います。しかしながら、ストップ&ゴーの多い低回転を多用する街乗りではかなりの苦行になる可能性があります。
低回転域では綺麗に燃焼していない為、燃焼室のカーボン等の発生も多くなると思います。ピストンリングの固着、バルブシートへのカーボン噛みこみ、なども気になります。
乗りにくい為、クラッチも多用することになり、クラッチ系の負担や摩耗も懸念されます。
また、クローズドコースでも、例えばミッションギア比がノーマルだった場合は、シフトアップごとにパワーバンドから外れることも考えられ、低回転域からパワーバンドに入る作用角のおとなしいカムシャフトの車両の方が速かった。ということも起こりえます。

低回転域と高回転域を両立したエンジンがホンダのVTECです。
「低回転域専用の作用角のおとなしいカムシャフト」と「高回転域専用の作用角の大きなカムシャフト」、という2種類の作用角を持つカムシャフトが搭載されており、回転の途中で切り替わります。
VTECという機構の存在によっても、低回転域から高回転域まですべての領域を、1本の(1種類の)カムシャフトでカバーすることは難しい。ということをご理解いただけると思いますが、いかがでしょうか。

WEBERキャブレターでお困りの方、調整、セッティング、オーバーホールお任せください。DCOE、DCNF、IDA、IDF、等数多くの実績あります。

ソレックス、ウェーバー等のキャブレターを装着されている方、アイドリングや吹け上がりがバラついていませんか?

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ビシッと同調が取れているエンジンは、ボンネットがしまっていれば、キャブだとは気が付かないくらい安定しています。

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お客さまより、ジェット番手の話をよく耳にしますが、
ジェット番手の前に以下をチェックしてください。

ガスケット等からの二次エアー吸いの有無
フロートレベルは合っているか
左右の同調はとれているか(シンクロメーター使用)
エンジンの排気量、仕様に応じた、アウターベンチュリー、インナーベンチュリー、が装着されているか

フロートレベルのずれや、左右の同調が取れていない、
また、アウターベンチュリー径が合っていないことにより不調な車両をよく見かけます。

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また、全体的に濃すぎて調子が悪くなっている場合が多いようです。
作用角の大きいカムを入れたのに、いまいち高回転がまわらない。という方、燃調のせいかもしれません。
そのエンジンの実力は、もっと凄いはずです。

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エマルジョンチューブは奥が深いです
“もう少し上で薄くしたい”
“中回転域が濃すぎる”
等の症状改善はエマルジョンチューブの変更です。
基本的にキャブレターは高回転で燃料が濃くなってしまいます。
それを補うのがエマルジョンチューブです。
チューブの直径(外径)、穴の位置(高さ)、大きさ、数、等によって、ベストなセッティングが可能です。
キャブだからこんなもんだろう、とか、アイドルとメインジェットとエアージェットしかないから全域で調子良くはならないよ。などと他店にて言われた、という声を聞きます。

グズついたり、バラつき、スムーズに吹け上がらない等、調子が悪いことを、
“これがキャブレター、味がある”
といって楽しまれている方もいるようですが・・・。

私自身、ウェーバーキャブレターは、
’90年代にAE86レースカーにて、’00年代はユーノスロードスターにて
かなりセッティングをしてきました。
試走、予選、と限られた時間の中で、その日のベストなセッティングを見つけ出し
決勝レースに挑んでいました。

セッティングでお困りの方ご相談ください。
フロートレベルゲージにてフロート高さ点検調整
シンクロメーターにて左右キャブ同調点検調整
バルブタイミング測定調整
空燃比測定可能(要センサー取り付け穴)

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